二匹 (河出文庫)

二匹 (河出文庫)

 裏表紙にある<聖なる愚か者>っていう言葉はとても興味深い。春ならざる青春を生きる純一と明。純一は<狂犬病>に感染している、とてもトロくて箸も使えないし自分じゃ昼食も買えないような愚鈍な生徒だけど、休み時間にはクラスメイトが彼の席に集まってくるような人気者。一方の明は、背が高く少し目つきが悪いという印を持っている上に無実の罪でクラスではほとんど完全にシカトされている。この2人が学校共同体とは異なる共同体を作り出し「金色の世界」へと向かうんだけど、まあそれは正直どうでもいい。興味深いのは作中では「見えないけど、すごく大きな手」と表現されている、学校共同体において純一を中心に、明を周縁へと押しやったものだ。いじめられっ子を中心にして安定的に保つ学校共同体は一般的に見られるけど、愚者を中心に、いじめられっ子を周辺に追いやって保たれているこのシステムはあまり耳にしない。<聖なる愚か者>を中心に祭り上げているこのシステムはカーニバル的なんだけど、実際は純一と明の2人の掛け合い以外にそんな雰囲気を漂わせているものはない。別にだからどうってことはないんだけど、なんとなく釈然としない小説だった。トイレが明らかにアジールとして書かれていたりするから余計になんか色々考えたくなっちゃう。