『未来都市の考古学』 鵜沢隆:監修

 1996年に東京都現代美術館他で開かれた同名展のカタログ。
 「実在しない「未完の都市」という壮大な実験場の集合の中で、それぞれの時代の都市の現実は逆照射され、都市への「願望」が結晶化する。展覧会のタイトルにある「未来都市」という言葉には、そうした現実の都市の対極点への指向が込められている。」
 という監修者の言葉からもわかるようにようするにまあ未来都市というか理想都市の系譜学になっている。理想を未来へと投影しなければならなかったからこそ「未来都市」なんだろうけど、まあ単純に幻想的なドローイングなんかも紹介されていて面白い。「ルネッサンス期の理想都市」から「ロシアのペーパー・アーキテクチャー」までが紹介されている。
 「ルネッサンス期の理想都市」では円形、星型、正方形、多角形の理想都市が志向されている(フィラレーテの《スフォルツィンダ》、マルティーニの《理想都市平面図》、デューラーの《理想都市平面図》)、これらの都市が肥大化することで軍事都市として矛盾をきたすとかなんとか書いていたのはヴィリリオだったっけ。軍事上の機能と形態上の秩序を優先させたこれらの形はたしかに美しいんだけど多角形の形が肥大化しきっていきなおかつ形態上の秩序も保とうとすると雪の結晶のようになってしまうのかなあなんて妄想、結晶世界ならぬ結晶都市。
 ピラネージの《カンポ・マルツィオ》はローマ古代のカンポ・マルツィオ地区の調査結果を地図上に復元しようとしたけどそれが不可能だったためにピラネージの想像力によって都市を復元したもの、ピラネージ自身の理想であるローマ建築をピラネージ自らの手で再構成したピラネージの理想都市はルネッサンスの理想都市とは違い複雑性や多様性を受け入れている点で現代の都市に近い。このような考古学と理想都市のつながりは仏エコール・デ・ボザールの制度にもうかがうことが出来る、ボザールでの設計競技勝利者にはローマ留学の権利が与えられてローマにおける古代建築の調査が課せられたらしい。後にはギリシャだとかアジアだとかにも留学生は派遣されて、古代建築の考古学調査はずっと続いてたんだってさ。だけどトニー・ガルニエはローマ大賞受賞後ローマへ赴くもののローマにはあんまり興味を示すことなく工業都市のイメージを提出した、それは社会主義ユートピア(シャルル・フーリエの「ファランステール」とそれが部分的に実現したゴタンの「ファミリステール」など)を鉄筋コンクリートを使った工場を中心とするイメージによって発展させたものといえるのかな。
 ところで、フーリエの「ファランステール」は男女比、総住人数やその日課などが細かく規定されている数字化されたユートピアなんだけど、数字化といえば、あらゆるものをデータとして扱うことで戯画的なヴィジョンを示したMVRDVの『Metacity/Datatown』がすごく欲しい!超-官僚主義的世界では風車がとんでもない高さになっちゃう。Amazonでは高値がついててすごくしょんぼりしてたらなんと南洋堂では普通に扱っているみたいなので仕送りを貰ったらそれを握り締めて買いにいこうと思う。
 まあこのカタログは他にもルイ=ブレ、ルドゥー、ルクーの三人衆、サンテリア、タトリン、アーキグラム(コルビュジエの弟子のルネ・ブラムの計画は、計画自体がものすごく合理主義的なものなのにその提示方法がイラストとコラージュなんかを使っていて妙にアーキグラムっぽかった)、タウト(同じ章であげられているハンス・ペルツィッヒという人のドローイングはトレーシングペーパーに木炭で描いてるからかもしれないけど、夕暮れの物悲しい雰囲気が漂っている、オットー・コーツのドローイングは近代主義的な建築でありながら妙な未来都市的なイメージがただよっていて、『世にも奇妙な物語』を連想させるような不気味さがある)、シュペーア、ロッシ、ペーパー・アーキテクチャーと盛り沢山な内容。すごく欲しいけどこれこそ高額古書なんですね…しょんぼり。アンビルト大好き。

MVRDV - Metacity Datatown

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