『暗闇の中で子供』 舞城王太郎

暗闇の中で子供 (講談社ノベルス)

暗闇の中で子供 (講談社ノベルス)

 奈津川家サーガ第二弾。前作の主人公は四男の四郎だったけど、今回の主人公は三文ミステリ作家の三男、三郎になってる、四郎はその天才ぶりを発揮して一瞬にして事件を解決してしまうけど、三男の三郎は凡人に近い。(ミステリ)作家である舞城が、((三文)ミステリ)作家でもある三郎をうじうじ悩ませ、成長させるという仕掛け。舞城作品に見られるコミカルかつ残酷な見立て殺人は健在なんだけど、すべては読者のためじゃなくて、最終的に三郎を救済するためにある。僕たちは、嫌な過去からは目を逸らし続けて生きていくわけだけど、舞城は三郎にそれを許さない。おそらく、自らにそれを許さないんだろうけど。奈津川家サーガが続くとして、それは贖罪の物語として続くのだろうか。
 ところで、四郎と三郎の推理のスタイルの差異は、三郎=舞城としたときに、他者の理解できなさの究極の形として現れているんじゃないかとか思った。舞城にとって、キャラクターである四郎はあくまで他者であり、推理の結果はともかくその過程は「わからない」、よって結果だけが提示されることになる。対して三郎のあまりにウジウジとした推理は、あくまで自分の(舞城の)思考過程の描写として書かれているから、そのように記述されることになっているんじゃないかなあとか。僕たちは相手の考えていることを推測することはできるけど、究極的には相手の発言や行動を、聞いたり見たりすることしかできない。その究極が四郎の推理なんだ。