『異人その他―他十二篇』 岡正雄、大林太良

異人その他―他十二篇 (岩波文庫)

異人その他―他十二篇 (岩波文庫)

 日本民族単一民族じゃなくて結構たくさんの文化の複合なんだよということをどの神話はどの文化からきているものだとか、西日本と東日本の社会の組織の違いだとかを引きながら述べられている本。解説にもあるけど、個々の要素の背後の原理的なものをうまく捉える人だという印象を受ける。日本人は色々な文化をある基にあるところにどんどんと受け入れてきた、という文化論がよくあるけど、その「ある基」自体には日本が単一民族で単一文化だという神話がある。それに対して「ある基」自体も複数の文化の複合なんだよと言っている本。とは言ってもとても古い本で、学問的に正しいのかどうかとかわからないけど、ある神話に対してノンをつきつけるような(少なくともトンデモではないように僕には思える)理論を提唱するのはすごいことだと思う。
 古代の経済史についても、それまで鑑みられてこなかったフォークロアに注目して、椀貸伝説とかアイヌの口承だとか無言交易を引き合いに出しつつ、最終的には「異人」に対する畏怖の念が、椀貸伝説やアイヌの口承における老婆だとか天狗だとかコロボックル、無言交易におけるその特殊な形式、また秘密結社の儀式などによって儀礼的、フォークロア的に表象されていることを引き出す。古代経済史についても…とか言って結論が古代経済史には直接はまだ結びつかないよね。まあ序説の草案みたいだからそんなものなのか。話自体はアイヌからポリネシアの秘密結社にまで広がっていて面白いと言えるのだけど、「異人」というベースを意識して読めばこの広がりの中にある原理を見ることが出来る。異人だとか境界だとかの話がとても、好きです。