『法窓夜話』、『続法窓夜話』 穂積陳重

法窓夜話 (岩波文庫)

法窓夜話 (岩波文庫)

 法律に関する小話を100個集めたもの。『続〜』の方も同じく100個の法律小話が収録されている。法律が如何にあるべきか、法律家は如何に法律を運用すべきか、といったような思想が法律にまつわるエピソードと共に語られる。とんちの利いた立法で法律を民衆に守らせる事に成功した(確か法律を守らせるために、どこそこに植えてある木を別のどこそこに移せば金を与えるという法律を作った、これによって民衆は法律を守ることを学んだとかなんとか)っていう話が紹介されていて「なるほど、賢い人もいたもんだ」なんて感心していると、その文章の最後ではそういう内容のない立法に対する批判がなされていたりする。

 法律の歴史の話から、面白いトリビアめいたもの、当時は法律が輸入されて来た頃だったので法律語の翻訳に関するエピソードなんかも含まれていて、本当に楽しい本。その中でちょっと気になったのが『続法窓夜話』の方で大日本帝国憲法で使われた「臣民」ていう単語が新造語だっていう話。もともとは君の下に臣(役人)がいて、臣の下に民(大衆)がいたわけ。臣は君の命令を民に伝え、民はそれを守る、とね。だから臣と民とは全く別物なのに臣民ていう単語にすることによって、天皇の前においてはすべての人間が服従することをうまく表現したわけ。
 これを読んで丸山真男が言っていたことを思いだした。国家の重臣天皇に近い位置にいることで権勢をふるいながらも尚、責任主体として決定していたわけではなかった、と。
 この丸山真男の指摘は、元をたどればこの「臣民」という新造語にたどることができるような気がする。天皇に近い位置にいるということで、権力を握りながらも、「臣民」という言葉によって、天皇の前における「臣民」の中の一人にもなってしまう、と。大日本帝国憲法のために作られた新造語の中に、大日本帝国末期の国家中枢における構造が見えるようで面白かった。