ジャニス日記

 ぐわんぐわんしてる。「時間」を感じることはできないけど「空間」を感じることはできる。ずっとオシレーターによるドローンと即興のヴァイオリンが波を支えながら波に揺られているような。そして、この僕も。目を閉じて聴くと平衡感覚が消失する。ただ海の中で漂うような、とか宇宙空間を漂うような、とかそういう安っぽい比喩で表現できるものではなく、真に波の中で波を聴いているような感覚。

  • Pauline Oliveros, Stuart Dempster, Panaiotis 《Deep Listening》

 「長い」音楽。残響時間が45秒の水槽での演奏。残響の中での演奏って、自ら鳴らした音に妨害されながらの演奏になるだろうから、それら過去の音との衝突が起こりそうなものなのに決してそのような衝突は起こっていない(ように思う)。長い音を慎重に処理しながら、音を生み出していってるのかな。その慎重さを、僕たちリスナーにも要求するCD。演奏者は演奏という行為のための聴取であるから必然、「深い聴取」が可能であろうけど、僕たちは「深い聴取」のための「深い聴取」をしなければならない。

  • 芦川聡《Still Way》

 ギリギリの音楽。音を繋げて音楽として聴くというアクティブな聴取のトレーニングのフィールド(「任意の『音』との真摯な向かい合いが、結果としてエステティックな聴取体験を可能にする」/佐々木敦『テクノイズ・マテリアリズム』)。ミニマムな音達の反復が音楽として立ち上がってくる、たしかにそんな体験もあるんだけど、ピアノの音そのものがいかに美しいものなのか、ということを思い知らされる。音でもそれは十分に聴取という行為に耐えうるんだな。「もしかしたら、その環境には、たった一音だけあればいいのかもしれない」っていう芦川の言葉が引用されていたけど、曲/音を二重に聴いているような気にさせられる、そんなCD。

テクノイズ・マテリアリズム

テクノイズ・マテリアリズム

 本の感想を書くよりは、紹介されていたものを実際に聴く方がいいかなと思って忘れないうちに借りてきた。