『虚無への供物』 中井英夫

虚無への供物 (講談社文庫)

虚無への供物 (講談社文庫)

 ミステリなので、一応。具体的なことを書いてるわけではないんだけど、気になる人は読んでからどうぞ。
 これがアンチ・ミステリだというのは、素人による推理合戦が全く的外れであり、またそれに関連して衒学趣味による見立てなどの失効が宣告されているという点にあると考えてよいのかな。五色不動、薔薇、シャンソンといった素人探偵が偽造した見立ては事件を美しく飾り立てるけど、それはあくまで「物語」としての美しさに過ぎない。推理小説の枠の中から推理小説のそういった美しさを否定した『虚無への供物』はまさに正統派アンチ・ミステリだと思う。清涼院流水の過剰さは、中井英夫のこの真面目さの前ではバカ・ミステリとしてしか存在しようがないんじゃないか。高級な動機で理解し難いという点で『薔薇の名前』なんかが比較対象にされそうだけど、探偵がそこへたどり着けるか否か、と言う点の差異は見過ごしうるものじゃない。「ウィリアム馬鹿じゃね?」ってならない以上『薔薇の名前』はアンチ・ミステリにはなりえないし、「探偵達馬鹿じゃね?」ってなるからこそ『虚無への供物』はアンチ・ミステリなんだろうなあと思った。僕は綾辻先生だとかを読んだことがないくせに偉そうに言ってごめんなさい…。