「最終ブックリスト320」から欲しいものを適当にリストアップ。

動物のいのち

動物のいのち

 クッツェーは『夷狄を待ちながら (集英社文庫)』で帝国側と野蛮人側(barbariansだものね)の描写を、その描写の詳細度によって書き分けていた。帝国側の描写は詳細で、野蛮人側の描写はほとんどなく、そのために効果的に帝国による支配が書かれている。うまく書き分けていた上手な作家だなと思っていた。『夷狄を待ちながら (集英社文庫)』では植民地問題、そして今回のこの本は生命倫理についての講演を収めたものらしい。架空の人物が生命倫理について語る、という形式をとった講演だということだ。この本の選者は「文学が生み出す「距離」とコミットメントを考えるために」という文章で本の紹介を終えているけど、たしかにクッツェーの現実への態度はどこか超然としたところがあるのかもしれない。『夷狄を待ちながら』も、恐ろしく洗練された小説だった。本国から派遣されてきた第三局という部署のジョル大佐、現地の民政官である私、夷狄の女。中途半端な位置にある私を通じて植民地支配のあり方が、スタイリッシュに書かれていた。そう、植民地支配を問題にした小説が、スタイリッシュに。きっとこの本でも生命倫理の問題について、スタイリッシュに、話をしたんだろうと思う。それはおそらく面白いものだろうし、面白いということそれ自体はよいことだと思う。

国民クイズ (上巻) (Ohta comics)

国民クイズ (上巻) (Ohta comics)

 民主主義=クイズ番組という設定のディストピアSFらしい。クイズの勝者はあらゆる法律を制定でき、そんな制度に反対した人間がテロリズムに走る話、だって。面白そうだよね。民主主義に対する愛と苛立ちは『銀河英雄伝説』のヤン・ウェンリーがもっともよく体現している。彼は天才的な軍事的才能を持ち、幾度となく独裁者となる機会を得ながらも、自らの所属する体制=民主主義を愛するが故にその道を選ばない、民主的に選ばれた彼の政体の代表を心から嫌悪し、軽蔑しているにもかかわらず(『銀河英雄伝説』の読者でトリューニヒトを嫌悪しない人間はいないと僕は信じている)。一方、ライバルのラインハルトは専制国家に属し、その中で自らの才能を発揮し、最終的には専制君主として君臨する。そこで彼は開明的で国民のためになる政策を次々と実行する。「デモクラシーのパラドクス!」という文句が『国民クイズ』の紹介文として使われているけど、民主主義の問題ばっかりはいくら考えても暗澹たる気分にしかならない。

山口晃作品集

山口晃作品集

 緻密な絵は見ていて楽しい。当然、僕はウォーリーを探せが大好きだった。

Boundaries

Boundaries

 「ベトナム戦争戦没者記念碑」ってのを作った人の作品集らしい、僕はその記念碑については知らないんだけど、戦没者の問題だとか記念碑の問題ってのはよく、論争を巻き起こすものだ。リトル・ビッグホーンの戦いのそれもなんか色々言ってた気がするし(最近米議会でその話をしてたとか何かで読んだはず、多分神奈川の家の方でもっかい探してみます)、僕らに馴染み深いところでは靖国神社なんかもそう言えるのかな。だから、アメリカが恥辱に塗れたベトナム戦争戦没者の、そして論争を巻き起こしたらしいこの記念碑ってのがいったいどんなものなのか、見てみたい。

American Prospects: Joel Sternfeld

American Prospects: Joel Sternfeld

 「特別ではない場所の特別さを特別とは見ないことを皮肉った」写真集らしい。僕が写真に一番期待するのはその「特別ではない場所の特別さ」を感じさせてくれる、ということだと思う。写真がただ現実を切り取るだけではなくって、何か別の力を持っているとするならば、僕はそういう効果を、期待したい。
Uncommon Places: The Complete Works

Uncommon Places: The Complete Works

 は「特別ではない場所を特別に見せる」写真集。「特別な場所の特別さ」を見せる写真集ばかりが多い気がするので(『廃墟ノスタルジア』なんてその典型じゃないか)、ちょっとそういうのは食傷気味。