『蛇にピアス』金原ひとみ 集英社

 というわけで(レポートを書かなければならないというわけで)金原ひとみ芥川賞受賞作『蛇にピアス』を読んだ。レポートの課題にでもならなければ一生読むこともなかったと思うんだけどそこそこ面白かった。『蛇にピアス』を絶賛してる村上ドラゴン芥川賞受賞作『限りなく透明に近いブルー』よりは面白かったかな。
 この話の登場人物は3人。

  • ルイ 女の子、アマの影響でピアスや刺青をはじめる
  • アマ ルイと半同棲中の男の子。ヤクザを殺しちゃう。
  • シバ 2人が通うパンクな店の店員さん。

 性描写なり、痛みの描写なりがうまい(というか、若い女の子が性描写を書いてるってだけで評価する人もいるんだよね)っていう点を評価しようとは思わない。ピアスホールを拡大していく描写は背中に嫌な汗をかくようなリアリティがあるんだけど、そういう描写ならもう少しレベルの高いものが2chの本当に怖い話スレとかに転がってる。
 僕が面白いと思ったのは、ルイのスプリットタンへの欲望がアマの死と共に失われる点だった。ありがちな話なんだけど、それまでルイ自身が気づいていなかったアマへの依存を、アマの死と共にやっとルイが認識する。それまでもルイがアマへ依存してるのは酒を飲んでるときのアマの態度とか見れば明らかなんだけど、アマがルイにベタベタ甘えたりするから読者にとってすら少しぼやけてた、ルイは当然気づいてない。だけどアマが死んで、加速度的に増してたスプリットタンへの欲望が一気に失われる。ルイのスプリットタンへの欲望は、アマのスプリットタンへの欲望だった。結局ルイは自分自身なんてものを見つけられてはいないんだ、自分を埋めてた他者がいなくなったらまた空っぽに戻る。
 とまあこの辺まではわかりやすい話になってるんだけど、最後の方になってくると象徴的なだけの記号が溢れてくる。本名、刺青の目、私の中の川。何かを意味していると思わせるような記号であふれかえるんだけど、それが意味してるものはない。妙に爽やかなエンディング。スプリットタンへの欲望が復活するけど*1、それはシバを諦めつつ受け入れるからなのかな。ルイは最後ヤケクソになってるようにしか思えないんだけど。それを妙に「成長して、ふっきりました!」みたいな感じにしようとしているのが気に入らない。
 読んだ人で「そこはおかしくない?」みたいな感想があるかたはメールなりコメントなりで意見をくれるとうれしいでーす。

*1:6/18追記:人に言われて気づいたけどスプリットタンへの欲望より、ピアスホールそのものへの欲望だなあ、この後に書いてあるシバの受け入れというよりも、アマを別の形で受け入れることができるようになった、って方がしっくりくるかもしれない