『陰謀のセオリー』とかを思い出した

[本]『戦争とオカルトの歴史』 W・アダム・マンデルバウム

戦争とオカルトの歴史

戦争とオカルトの歴史

 タイトル通り、戦争とオカルトの関係の歴史を書いたもの。僕はオカルトとかは冗談としては大好きなので暇つぶしのつもりで読み始めたんだけど、厚さを考えたら暇つぶしに読み始めたのは大失敗だった。マンデルバウムは戦争とオカルトの関係を「軍事オカルト複合体」と呼ぶ。最初の方(聖書の記述の検証にはじまりデルフォイ神託とギリシャの軍事、エジプトの神々とエジプトの軍事の関係がどうたら)は流し読みをしていたんだけど、ナチスとトゥーレ協会の関係が語られるあたりからしっかり読み始めた。最後の方ではCIAの遠隔透視技術研究あたりが主題になるんだけど、この辺がこの本の見所だと思う。ものすごく乱暴に要約すると、著者は初期の「軍事オカルト複合体」は、迷信だとかデタラメだとかに頼った馬鹿げたものなんだけど、CIAその他の米国の機関が開発している(していた)オカルト的技術は実際に成果を挙げており、CIAが発表している「オカルトはやっぱ使えなかったから研究するのやめた」ってのは情報隠蔽工作だとかなんだとか言っている。
 「軍事オカルト複合体」という観点から書かれた歴史書ってことで、たしかに珍しいものだし面白かった、紹介されているエピソードだとか人物だとか団体だとかについての役に立たないけど面白い知識を得る事が出来る。「ナチスとオカルト」とかはよく扱われるテーマだけど、そういったものの前提としての総論としてとても良い。
 CIAがフィリピンのフクバラハップの追跡のためにフク団団員を殺した後にその死体をまるでヴァンパイアの餌食となったかのように晒すっていう方法を採用したっていうエピソードが載ってるんだけど、これはわかりやすい意味で「軍事オカルト複合体」を説明していると思う。僕たちはこのエピソードなら容易に理解できる、文化的な認識の差異(優劣、と言ったほうがわかりやすいかもしれないけど)を利用したこのような作戦が実際に行われていたということを知るのは楽しい。デルフォイ信託に従うギリシャ人も、弾に当たらないと信じる義和団も、「神風」伝説の影響下で組織された神風特攻隊も、「軍事オカルト複合体」の観点から見るととても面白い、ただその面白さはアメリカ軍とフクハラバップの立場の差違いに僕たちと歴史が置かれるから面白いんだ。ナチスのロシア進軍が夏服で行われたのも地球氷晶論だとかなんだとか言う理論によって侵略するころのロシアはそんなに寒くないからって予測されてたからなんだってさ。
 こういう歴史書としての性格と「CIAで行われていた遠隔透視研究は実際に成果をあげていた、それらに関する報道(効果が上がらなかった)はデタラメだ、まあ軍事機密だから仕方ないんだろうけど、けど本当なんだって」みたいなことを明らかにしたい書という性格の温度差がこの本を微妙にまとまりの悪い本にしてしまってる。
 アメリカ軍における「軍事オカルト複合体」の同じような例としてアメリカ陸軍のオカルト的計画である第一地球大隊(ファースト・アース・バタリオン)構想というものが紹介されていて、この部隊はヨガ、朝鮮人参茶、アフェタミンによって鍛えられ、UFOの着陸場所を整備して、地球外生命体との交信の準備をするものらしい。同じような、と書いたけどもこの同じようにしか僕たちには思えないこの超人計画と遠隔透視計画の差異、今までのオカルト的軍事と遠隔透視計画の差異こそが彼にとってはもっとも重要な点なんだろうけど、その差異を差異として認識できない人間にとっては「なにをムキになってんの?」って思えるぐらいの勢いで彼は遠隔透視計画の実在、有用性を主張する。
 本書を読み終わった今でも僕にとってはその差異がはっきりしたものだとは思えない(この本で割かれた分量の差異ははっきりとしているけど)。僕の頭が固定観念に縛られていて、彼の正当な主張を理解できていないという可能性は十分にある。だけど、この本書の歴史書としての面白さはともかく本書の意図を考えればそれは(少なくとも僕に関しては)大きく失敗していると言わざるをえない。ただ完全な失敗ではないと思う、僕はこれを読んでいる人なら馬鹿げていると一蹴するであろう「遠隔透視計画」について、もしかしたら…程度の認識は抱くようになっているから。